第1章 カワイイ彼女
「ナナ、なんでジャージ?」
椅子に座るナナちゃんの元へ駆け寄る赤葦。
本当愛されてるなぁ、羨ましい。
「ぶつかった時に弾みで転ばせちゃって、制服が土で汚れちゃったから貸したの」
「……」
ピリ、と空気が冷たくなる。
「ナナ、痛いところは?」
「だ、大丈夫だよ、京治くん。
ほら、脚だって手当てして貰ったし……ね?」
「……優し過ぎなんだよ。
その優しさに漬け込む奴が居たらどうするんだ……」
小さく漏れた赤葦の本音。
バッチリ聞こえてしまった。
そうよね、ここに居るもの。
その優しさを利用して、2人の関係を引き裂こうとする人間が。
「センパイ!
ジャージは洗って返しますね!」
ニコニコと笑う。
その隣に居る赤葦の表情は険しい。
「いーのいーの、そんなに気を遣わなくて!
今日帰る時に返してよ。
そのあとは赤葦にジャージ借りれば良いでしょ?」
「え、でも、そんな……」
「俺は構わないよ」
「あ、じゃあ……」
「なんなら今からでも」
「それはちょっと急過ぎだよ、京治くん」
練習が再開し、ナナちゃんの効果もあってか赤葦は調子が良さそうだった。
「ヨッシャア、ヘイヘイヘーイ!」
赤葦が調子良いと、比例して木兎の調子も良い。
まだ今日はしょぼくれモードにも入ってないし。
うん、順調。
「なー、赤葦!
今日も居残り練してくだろ?」
「ちょっと木兎?
今日勉強教えるって約束したじゃない。
あんまり遅くならないでよ?」
「あ!そうだった!わりー」
「もう……」