第8章 俺、嫉妬深いって言いましたよね
「赤葦に隠れて何してんだよ」
「別に、何もしてないですよ」
顎から手を離しながら、何事もなかったかのように言う月島くん。
声色に動揺が見えない。
「何お前、夏美のこと好きなの?」
「はぁ?
なんで僕が……黒尾さんの趣味を疑います」
「俺の趣味って、俺が好きみてーな言い方すんじゃねーよ!
赤葦の趣味って言えよ」
ちょっと、私、空気過ぎない?
なんだか虚しくなって、2人の間をすり抜けようとした。
「待てって」
腕を掴まれ、その場に留まるしかなかった。
「そんな顔で戻んの?
狼に食い散らかされちゃうよー?
あ、獅子か」
そんな顔?獅子?
黒尾くんの言ってることが分からず、首を傾げる。
「赤葦の言ってた無自覚ってこのことか……。
赤葦も大変だなぁ、おい」
深い深い溜め息を吐いた黒尾くん。
その溜め息の理由は分からない。
多分聞いても教えてくれなさそう。
「泣き顔で戻っても襲ってくださいって言ってるようなもんだろ」
黒尾くんの目が鋭くて、肩が震える。
獲物を狙う捕食者のような目。
初めて見るギラついた目に腰が引ける。
「そんなことないと思う。あと泣いてない」
「へーへー。
じゃあ今ここで鳴かせてやらなきゃな、カワイク」
掴まれた腕に力が籠る。
「ちょっと、黒尾くん?」
「んー?」
「……何してんすか」
「っ、赤葦!良かった!」
倉庫内に光が入り込んだと思えば、赤葦が腕を組んで立っていた。
「俺のだって言いましたよね。
いくら黒尾さんでも許しませんよ?」
黒尾くんに掴まれている方とは反対側の腕を引っ張られ、今は赤葦の胸の中。
「あなたも何易々と捕まってるんですか」
「だ、だって、思いの外力が強くて……」
赤葦の目が鋭い。