第1章 カワイイ彼女
「大丈夫?」
声を掛けると、大きく跳ねる肩。
「怪我してない?」
「大丈夫です……ありがとうございます」
ゆっくりと上げられた顔。
その可愛らしい顔には見覚えがあった。
「ナナちゃん……だよね?
赤葦の彼女の」
そう、いつも赤葦の隣に居る可愛い彼女。
私の恋敵。
「大丈夫?赤葦呼んで来よっか?」
「や!お願いです、京治くんには言わないで……」
小柄な身体、ふわふわした髪、高くて細い声、白い肌に、涙で潤む大きい瞳。
……羨ましい。
男子が好きなもの全部持ってる。
むしろ好きなものだけ詰め込んだ感じ。
「制服汚れちゃってるね。
ちょっと大きいかもだけど、とりあえずこれ着て」
バレー部のジャージを肩に掛ける。
私なんでライバルにこんなことしてるんだろ。
「あの……」
「ん?
あ、ゴメン、もしかして汗くさかった?」
「あ、いえ、そうじゃなくて……」
言いにくそうに、私の顔を伺いながら上目遣いで尋ねる。
悔しいけど、可愛い。
護りたくなるっていうのも分からなくない。
「ごめんなさい……!」
「え?何が?」
唐突の謝罪に首を傾げるしかない。
「わたし、京治くんと話す先輩に嫉妬して……。
それで京治くんに、先輩と話さないでって言っちゃって……。
ごめんなさい……先輩はこんなに優しくしてくれるのに、わたし……。
先輩は美人で、実力があって、だから、京治くんが盗られちゃうんじゃないかって……心配で」
なんだ、この子も私と一緒か。
この子が心配するってことは、少しは可能性があるかもってこと?
他のマネージャーじゃなく私を警戒するってことは、他のマネージャーより私の方が赤葦と距離が近いってことでしょ?
なんだ、弱気になる必要ないじゃない。