第1章 カワイイ彼女
あっという間に時間は流れ、部活の時間になった。
更衣室で着替えを済ませて体育館に向かうと、見知った影。
赤葦と、その彼女。
2人の姿を見つけて、咄嗟に身を隠してしまった。
「……なの、ごめんね」
どうやら彼女は泣いているようだ。
これは別れ話?
読めない展開に、耳を傾ける。
「……そう。
ごめん、気付かなくて。
辛かったよね?」
赤葦の……初めて聞く甘い声。
心臓が嫌な音を立て始める。
別れ話をしてるんじゃないの?
なのになんでそんなに甘い声を出すの?
赤葦がフッて、彼女が泣いてるんでしょ……?
「ううん、わたしが弱いから……。
重たいよね、こんなの」
「全然、むしろ言ってくれてありがとう。
気付けないまま気まずくなるより、言ってくれた方が嬉しい。
部活に支障が出ない程度なら、大丈夫だよ」
「ありがとう……。
でも京治くん、それで部活でイジメられたりとか……」
「大丈夫、そういうことをする人は居ないから。
瀬名さんとは最低限しか話さないようにするから」
私?
「うん、ありがとう、京治くん。
もう大丈夫だから、部活……」
「分かった。
じゃあまた、帰りに」
「うんっ」
女の子の弾んだ声がする。
2つの足音が、同時に遠ざかって行く。
最低限しか話さないって何?
私のこと避けるってこと?
距離を置くの?
なんで私だけなの?
私だけ避けられなきゃいけないの。
ねぇ、なんで。
「諦めろって……ことなの.?」
潮時?好意がバレた?
頭の中がグシャグシャになる。
胸が痛くて、呼吸が苦しい。
目が熱い。
「嫌だよ……こんなに好きなのに……」
自分じゃ抑えが効かないぐらい好きで好きで堪らないのに。