第3章 カワイイ後輩、憎い後輩
片付けを終えて、鍵締めを赤葦に任せ、私と光太郎は先に戻る。
「あっ!」
「ん?どうした?」
「ちょっと忘れ物しちゃったから、先に戻ってて!」
「おー、分かった。じゃーな」
慌てて体育館に戻り、扉に手を掛けようとすると中なら声が聞こえた。
その声に、扉に掛けられた手が止まる。
「ナナ……」
「ま、待って、京治くん。まだ恥ずかしい……」
「嫌?」
「嫌じゃない、けど……」
「俺はキスしたい」
赤葦とナナちゃんの声。
ナナちゃんの戸惑う声と、赤葦の優しい声音。
「が、学校では我慢、デス」
「……そっか、分かった」
赤葦とのキス。
「良いなぁ……」
ポツリと漏れた本音。
1度零れた言葉は、訂正が効かない。
隠し続けた本音を吐き出したことで胸が痛んだ。
「あれ、瀬名さん?忘れ物ですか?」
タイミング悪く開かれた扉。
少しの隙間から逃げるように走り去って行くナナちゃん。
それを目で追う赤葦の表情は切なそう。
「あ、そう、タオル忘れて……」
「あぁ、これですね。隅に落ちてました」
「ありがとう」
赤葦から忘れ物のタオルを受け取る。
「瀬名さん」
「んー?」
「少しだけ目、瞑ってください」
「え?」
「早く」
「う、うん」
赤葦に言われた通り、目を瞑る。
触れる指先に心拍数が上がる。
キスされる?
「取れた。
前髪についてましたよ、糸くず」
「あ、ありがとう。
言ってくれれば自分で取ったのに……。
距離近いとナナちゃん妬いちゃうんじゃない?」
クスクスと笑ってるけど、内心は凄く焦ってる。
顔、赤くなっちゃってないかな?
「大丈夫ですよ。
妬く暇がないぐらいに愛してますから」
赤葦から直接聞くと、ダメージが半端ないよ……。