第1章 運命の人
4月の頭。クラス委員を決める日、他人事の様にぼーっと窓の外に咲き乱れる桜を眺めていた私は急に上がった自分の名にびっくりして教壇の方を見た。
長船先生がなぜか私を推薦したのだ。見た目が委員長っぽいからと、わけのわからない理由で。
他に立候補者もおらず、そんな先生の推薦に皆から笑いは上がっても異論は出ずにそのまま私は委員長にされてしまった。こんなの完璧にパワハラだ。
……本当に、思い出すたびに腹が立つ。
鞄を机の横に掛けると私はすぐに先生の元へと向かった。
「はい、今日はこれ。よろしくね」
「はい」
先生から笑顔で手渡されたのは小さな花束だ。
委員長の仕事はこの花のお世話から始まる。でもこれは委員長の仕事の中でも唯一好きな仕事だった。
この花はいつもこの長船先生が自ら持ってくる。
私がクラス委員長にされたあの忌まわしい日、長船先生に言われたのだ。
――僕は花が好きでね。僕が買ってくるから、世話を手伝ってくれないかい。
そのギャップに少々驚いたが私も花は好きなので、わかりましたと承諾した。
今日の花はシオンだ。薄紫色のその花と花瓶を持って私が廊下へと向かおうとすると声がかかった。
「いつもありがとう、委員長」
「いえ」
そうして私は廊下に出て水道へと向かった。
クラスの女子は皆、私を羨ましがる。委員長は絶対みっちゃん先生から気に入られていると。
だが私はそう言われても全く嬉しくない。寧ろ委員長になどされて迷惑もいいところだ。
それに私には運命の人がいる。
物心ついたころからずっと夢に見ている、運命の人が。
その人の姿も、声も、霞みがかったようにはっきりとはしないけれど、きっと出逢えたらすぐにわかるはずだと、そう信じている。
だから他に目の前にどんなイケメンが現れようが、私はその人以外好きになったりはしない。絶対に。