第2章 そろそろ限界
「……でも君も、もう少し警戒心を持って欲しいかなぁ」
「?」
漸く落ち着いた頃に言われ顔を上げると先生は困ったように笑っていた。
「放課後こんな場所に呼び出されたらほぼ告白だってわかるだろう? 僕が来なかったらどうなっていたか」
「そりゃ、そうですけど、……ちゃんと断わろうと思って」
そう答えると長船先生はふっと笑った。
「君らしいけどね」
「え?」
「そういえば委員長、好きな人がいるんだって?」
「!」
ぼっと顏が熱くなる。さっきの会話を聞かれていたのだ。……ちょっとでも良い先生だと思った私が馬鹿だった。
私はがばっと立ち上がる。
「もう戻ります。ありがとうございました」
「あれ、行っちゃうのかい?」
しゃがんだまま、私を見上げる長船先生。
「委員長の仕事がまだたくさん残っているので!」
皮肉を込めて言いながら私は長船先生の前から立ち去った。
「頑張ってね、主」
校舎に入る直前に掛けられたそんな声に振り向けば、長船先生が夕陽をバックに眩しいくらいの笑顔を私に向けていた。
――あるじ? そんなふうに聞こえた気がしたけれど、きっと気のせいだろう。だって、意味が解らない。
私は首を傾げながらも一礼して、校舎の中へと戻った。
「あ~、格好悪い。僕もそろそろ限界なんだけどなぁ」
直後呟かれたそんな言葉を、私は知る由もなかった。