第5章 『斗真』と『透』
「ハイハイ」
「いってら」
すでに寝る気満々で斗真はヒラヒラと手を振る。
だけど。
「來」
枕にうずめていた顔を上げて。
いつになく真剣に。
「お前、気に入った」
そう、にっこりと笑って見せたのだ。
「はぁ?」
そのままバサっと投げて寄越したのは真っ白いバスローブで。
「被ってろ」
それだけ言うと、またこちらに背を向けてしまった。
「さすがに、ひとりで入るから」
シャワーだけ浴びて出るつもりが。
何故だか透に寄りかかりながらシャワーを浴びる形となっているこの状況は、そろそろ羞恥心が戻ってきそう。
「体動かないでしょ、大丈夫だよ、さすがにする体力ないし」
「…………」
それは、ごもっともですが。
「ライちゃんさ、エッチするの好きになってきた?」
「…っ、は、はっ?!」
いきなりディープな内容に。
ヤバい、今どもった。
「………嫌いじゃ、ない」
これだけがあたしの精一杯だよ。
「はは、ごめんごめん」
頭を撫でていく濡れた手のひらが気持ちいい。
「あれさ、今日の」
「うん」
「もうバレてるでしょ」
じ、っと無表情で下から真上を見上げてみる。
ふたりが揃ってご帰宅した時点でほんとは、気づくはずだったんだ。
火照るだけ火照らせて、放置された、事実に。
「………」
わざと作った気まずい間に、透の喉が上下に動いた。
「知らない」
「やっぱり。………怒る?」
「怒らないよ」
「気持ちよかった?」
「……」
「よかった、否定しないんだ」
「……て、ゆーかもう、いいから。出る、寝る」
照れ隠しに背けた視線は、透の伸ばされた掌にあっさりと捕まって。
顔ごとわざと、視線を奪われた。