第5章 『斗真』と『透』
「おかえりー」
斗真の車で走ること30分、やっと到着した例の高級マンション。
の、一室では。
もうひとりの片割れが、なにやら眼鏡をかけた難しい顔を一瞬緩めて。
笑顔でそう、あたしたちを迎え入れた。
「あれ、眼鏡一緒?」
「ああ、ほんと。斗真にもらった?」
「うん」
「俺も一緒」
「目、悪いの?」
「日常生活は問題ないよ。ライちゃんこそまだ眼鏡かけてたの?」
「斗真がしてろって」
「…………ふぅん」
「お前今すっげー悪いやつの顔んなってるからな」
「どーりでお迎え、ご苦労様」
「?」
「ま、いいや。ちょうど行き詰まってたし」
おいでおいでする透に促されるままに。
ソファーの下の透の隣に腰をおろせば。
彼は今まで使用していたであろうパソコンを、パタンと静かに閉じた。
その動作をただ目で追っていれば。
そのうち急に世界が反転した。
パソコンを見ていたはずの視線。
だけど今真正面にあるのはパソコンでもなんでもなくて。
「癒して?」
透と、その後ろに天井。
「え」
「ねぇライちゃん、キミから斗真の匂いがする。」
「ぇ」
「なんで?」
「………………っ」
首筋に顔を埋めて、すん、と軽く匂いを嗅ぐその動作に。
反射的に顔が赤くなるのを自分でも止められない。
「車で、ヤった?」
「し、てない……っ」
「ああ、悪戯されちゃった?」
「…………っ」
「抜け駆け、多いね、最近」
あ。
また、遠い目。
哀しそうな目の色。
時々透は、こんな顔をする。
瞳の奥に揺れる哀しい色。
嫉妬?
じゃ、ない。
そんな生易しいものじゃない。
「ねぇ」
「…………っ」
さっき、斗真のつけた所有物、の印と同じ場所にまた鈍い痛み。
「俺にもしてよ」