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愛玩彼女

第5章 『斗真』と『透』


「あれ、ほんとに辞めたの小遣い稼ぎ」


帰りのベルと同時に教室を飛び出して。
階段をダッシュして降りれば。
同じクラス、のはずのまきちゃん、か。
何故か下からちょうどあがってきたところだった。

よく午後の授業をサボるまきちゃんには、もうかける言葉すらないんだけど。


「この時間、掃除当番代わるって走り回ってたのに」
「ああ……」

今は違う意味で走ってるけど。

「急ぎ?」
「うん、それなりには」
「そう。邪魔したね」

涼しい顔してあたしの横を通りすぎるまきちゃんから、ふ、と香った香水の残り香。

「まきちゃん」
「ん?」

思わず呼び止めといて、言葉が続かない。
自分で急ぎ、って、言ったくせに。

「あー、の、バイバイ?」
「ん、金持ちのじーさんにもよろしくね」
「だから、違うってば!」
「はいはい、急ぐんでしょ、バイバイ」


振り返らずに階段を昇るまきちゃんに一瞬だけ預けた視線。


やば、時間!!


だけどそれはすぐに。
掃除開始のベルと共にあたしを現実へと引き戻すのだ。



遅れたら遅れたで、まためんどくさい。










「遅い」
「…………」

ですよね。

「なんだよ」

「…………」


なんか。
どっち?なんて聞かなくても。
最近わかるようになってきたかも。


無言で。
それこそ無表情で彼を見上げる。


「…………っ」


照れて、視線を反らすのは。
間違いなく『斗真』だ。


「お前、わざと」
「………ごめん」

なんか楽しくて。
なんて言った瞬間あたし殺されちゃうのかな。


「いいから、乗れよ」
「ありがとう」


怖くて、無愛想で。
だけど人一倍、照れ屋で。
たぶん不器用な、人。


なんとなく、わかってきた気がする。
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