第2章 新生活、開始!
「ほんっとー、に、ごめんなさいっっっ!」
朝、目覚めた瞬間に。
広すぎるふかふかのベッドに上体だけを起こせば。
急に現れたのはよく知る美人なお兄さん。
が。
きっちりと正座して、目の前で両手をパチン、と、合わせている。
「……………」
あのあと。
とーるに肩を食い千切られたあと。
いや、実際はそんなスプラッターな感じでもなく、ただただ歯形がくっきりとつくくらいではあるんだけど。
とにかくあの激痛は食い千切られたくらいの衝撃だった。
現にかなり出血するわ。
化膿して炎症起こして熱出すわ。
実に1週間、あたしはまともに体を起こせなかった、らしい。
その間、鎮静剤で意識飛ばして。
それでも毎食お粥とかスープとか、食べさせてもらっていた記憶はうっすらとある。
おかげであの激痛に苦しむことも記憶の中には覚えがない。
まぁだけど。
とーるが近付く度に体がビクビクと反応するのは仕方ないことだとも思う。
『気持ちいい』、を覚える前に、『痛い』を知ってしまったあたしの体は。
悲しい条件反射が止まらなくなっていたんだ。
「嫌われたな」
「ライちゃん………」
嫌いなわけじゃない、んだけど。
うん。
たぶん強いて言うならばそれは『怖い』、とも言い換えられる感情。
あの瞳。
冷酷なまでのあの視線。
痛み云々の前に、それが一番、怖い。
優しく笑う瞳も。
人を気遣うあったかい瞳も。
からかい笑うその表情(かお)も。
無表情なまでに冷酷な瞳、も。
全てこの人そのもの。
怖い。
この人、怖い。
全然、考えが読めないんだ。