第1章 契約成立!?
「來ちゃん、あんまり飲まないの?」
飲みません。
「おとなしいね、緊張しちゃってる?」
むしろうざがってます。
ガヤガヤと騒がしい飲み屋の店内。
社交辞令よろしく代わる代わる声をかけてくる酔っぱらいに適当な相槌うつこと数十分。
ついにあたしのまわりには誰もいなくなった。
「…………はぁ」
疲れるなぁ。
かけなれない眼鏡だってしてたら頭痛もしてくるし。
慣れないお酒はいつ飲んでも美味しく感じない。
何が楽しくてあんなにギャーギャー騒げるんだろう。
楽しそうに絡む集団をどこか冷めた目で見つめながら、美味しくもない目の前のグラスを口元へと傾けた。
その、時に。
「…………ねぇ」
コトン、て。
グラスとテーブルがぶつかる音を響かせて。
『彼』、は。
あたしの隣へと腰をおろしたんだ。
「ぇ」
ふわりと、何故だか一瞬変わった空気に、思わず振り返る。
「キミ、さ、なんでこんなとこいるの?」
「え?」
あれ。
なんだかいい匂い、する。
この人。
「こんなとこ、なんでいるの?」
なんで、なんて。
なんでそんなこときくの。
飲み会に来たから、に、決まってんじゃん。
って、そう言いたいのに。
振り向いた瞬間視界に飛び込んできたその姿に。
思わず一瞬、いや数分くらい、時が止まった。
「お酒嫌い?」
「え」
「それ、全然減ってない」
「あ、ああ、ええ」
ああ視線が痛い。
女の子たちの、ギラついた視線に耐えきれずに。
とっさに泳がせた視線とあやふやな解答。
お願いだからどっか行って。
あたしは彼女たちの引き立て役なんだから。
だっさい眼鏡かけて、時代遅れなワンピース着て、美味しくもないお酒を飲みにきたのは全部お金のためなんだから。
「つまんない?」
「そうですねー」
だから、どっか行って。
「そっかぁ」
うん、ごめんなさい。
あたしのことはお気になさらず。
なんて心の中で安堵したのも束の間。
「じゃ、さ?抜けちゃおっか」
「は?ええっ!?」
ぐい、と。
力強く右腕を捕まれたと思った瞬間に。
何故だかそのまま勢いに任せてあたしは彼と一緒に店を出ていたのだ。