第2章 新生活、開始!
「問題あんの」
強引に押し込まれた車の、助手席。
ぶ、すー、と不細工に顔を歪ませること、数分。
あたしよりも不機嫌に、隣の彼の声が低く響いた。
「あるでしょ!むしろ山積みだけど」
「例えば?」
「昨日だって荷造りとか、いきなり業者来て梱包してっちゃうし。ってかほとんど全部、捨てちゃうしっ」
「必要ねーじゃん、他には?」
「はぁ?」
必要あります、全部。
「大家さんに話とか、解約とか勝手にしちゃうし」
「あれは大家に言われたから」
「あたしは言われてない」
「面倒なのは嫌だ、ってさ。ウチ来てんだから問題ねーじゃん」
「はぁ?」
「あとは?」
「いやまって!勝手に解決しちゃってるけど!なんかいろいろ問題ばっかなんですけど」
目眩してきた。
なんなの、常識に差がありすぎる。
そもそも常識なんてあるの、この人。
「どの辺が?」
「全部が!」
ふい、と。
思い切り反らした視線を窓へと向ければ。
「お前さ」
いきなり伸びてきた両腕があたしを窓へと囲った。
「自分の立場、わかってんの?」
「………っ」
近……っ。
「ようはお前、金で買われたんだろ。」
「………」
蔑むように見下ろす視線。
「何勝手に顔傷物にしてんの」
「…………は?」
「俺のもの勝手に傷つけてんじゃねぇっていってんの」
「……はぁ」
「自分の立場、よく考えろ」
「……………ぇ」
ふわ、と。
左頬に触れたのは彼の唇で。
先ほどの蔑むように見下ろす視線とのギャップに、思わず瞳を見開いて彼を見上れば。
バッチリと目があった、瞬間。
小さく舌打ちしながら、彼、とーまは、ものすごく決まり悪そうに、あたしから離れていった。
ついでに。
信号で止まっていたらしい車は、そのまま無言で走っていく。
『金で買われた』
そうだ。
あたし、買われたんだ。
早い話。
100万やるから黙ってヤらせろ、とかそーゆーこと。
なのに。
なのに。
なんでそんなに優しく触れるの。
せめてどっちかにしてよ。
軽蔑、したような目、してたじゃん。
なんで急に優しくなるの?