第12章 『すき』『きらい』
「來」
午前10時。
時間ぴったりに、運転手付きの車が正面玄関口へと止まって。
当然のようにそれに乗り込む斗真に、躊躇しながらも半ば引っ張られる感じで乗り込んだ黒塗りの車。
車内の空気も、外観同様重くて。
斗真は頬杖ついたまま、窓の外から視線は外さないし。
ただただ、重すぎる空気に吐息さえも圧し殺した。
「決まった?答え」
無言で入ったリビング。
たった1日いなかっただけなのに。
何故かすごく久しぶりな、我が家の雰囲気で。
そのギャップに、息を飲んだ。
「ここにいたいなら、選べよどっちか」
「……選べ、なかった、ら?」
「さぁな」
『勝手にしろ』
そう、言ってるような鋭い瞳。
そうだ。
透も出てく前にこんな瞳、してた。
こんな、瞳。
ならあたしは、ふたりのウチどちらかを選んだところでもう、手遅れなのかもしれない。
だってふたりとも、もうあたしを見てない。
あたしを、その瞳にうつしてないもん。
「來?」
手遅れ。
いっつもそうだ。
答えを出す前に、すでに答えは出てるんだ。
「………斗真」
泣いちゃ駄目。
だって、泣いたらこんなの卑怯だもん。
「あたし、どーすればいい?」
「は?」
「斗真も、透も、もうとっくに答えは出てて、あたしはたぶん、ここを出てかなきゃいけない」
「………」
「斗真も、透も、どちらかを選んだところであたしはたぶん絶対後悔するし、ふたりに応えらんないなら今すぐここを出てくべきなのに」
あたし。
ここを出ていきたくない。
透と。
斗真と。
一緒にいたい。
「すきもきらいも、よくわかんなくて。だけど透と斗真とは、離れたくない。一緒にいたい。あたしを、必要としてほしい。あたしを、見て欲しい」
「……」