第12章 『すき』『きらい』
「……っ」
呑み込まれる。
斗真の、色香に。
匂いに。
狂おしいくらいの、瞳の奥にある熱い眼差しに。
だけど。
「……と、ま」
今は、違う。
流されていいときなんかじゃない。
「ごめん」
答えてない。
あたし、斗真の問いに答えてないもん。
「ごめん、斗真」
顔を見るのが怖くて。
うつむき加減に呟いた。
途端に聞こえたのは、短いため息。
笑ってるようにも、怒ってるようにも取れるそれに、一瞬ビク、と反応する。
今度こそ、おしまい。
あたし、わざわざ雨の中勝手にぶっ倒れて、斗真の病院まで来て。
斗真に繋ぎ止めて欲しかったはず、なのに。
斗真に応えちゃえば全部、丸く収まったはずなのに。
『打算や計算で動くコ好きじゃない』
透の言葉が離れないんだ。
それでいいのかな。
あたし、斗真のことちゃんと好きなのかな。
好きだから、繋げてもいいってちゃんと理由あるのかな。
斗真の問いにも答えらんなくて。
それでいいんだっけ。
考えれば考えるほどに、このままじゃ絶対駄目だって思えてくるんだよ。
「なんで?」
「透、にも、悪いから」
「お前俺眠ってるとき病室で散々ヤりまくってたじゃん」
「そ、れは……っ」
「何が違うの」
「あれは、自分でもほんと、よくわかんなくて」
「それってさ、透が好きってこと?」
「ぇ」
『透が好き』……。
「どーなの、來」
真剣な、瞳。
射抜かれる。
「……ごめん、わかんない」
「…………」
『嫌い』じゃ、ない。
だけど。
今斗真が欲しがってるのはそんな言葉じゃなくて。
もっとちゃんとした、応えだ。
「……ごめん」
沈黙。
重くて、沈黙が重すぎて顔を上げられずにいれば。
「わかった」
短くそう、言い残して。
斗真はドアへと足を進めた。
「……っ」
声をかけようにも、呼び止める資格なんかない。
斗真を縛りつける権利は、あたしにはない。
「明日、車回してあるから準備できたらロビー来て」
「ぇ」
「お前の帰る家、今はまだあそこだろ?」