第12章 『すき』『きらい』
ちょ、っ止まって。
そのまま噛み付かれるかと思うくらい、ただまっすぐに唇を重ねようとする斗真から数ミリ、距離をとる。
とはいえ、首の後ろを力強く抱く掌からは逃れられるわけもなく。
だけどあたしが示した拒絶の反応は、確かに目の前の野獣には伝わったようだ。
「何」
不機嫌そうに、低い声があたしを威圧する。
「あ、ぁの、だって…」
視線だけでぶら下がってる点滴を指し示せば。
斗真も合わせて、視線を追いかける。
「まだ、全然あんじゃん。さっき見回り来たばっかだから、あと3時間はこねぇよ」
「ぃや、問題そこじゃなくて」
「どこだよ」
「病院、とか?あたしも斗真も、入院中、とか?」
「俺明日退院だし、お前も明日には帰れるだろ」
『オッケー問題なし』、とでも言いたげに満足そうに頷いて。
斗真は再度、唇を傾けた。
「は?」
そのまま迫ってくる斗真の唇を、両手のひらでむぎゅ、と阻止すれば。
不機嫌そうに、ひとりごちて、鋭い視線が突き刺さった。
「ぃや、ないでしょ。点滴してるし、病院だし」
「ひとの病室で散々したやつの、どの口がゆーんだよ、ええ??」
「ひゃかや、ごんん(だから、ごめん)て」
「お前いいからもう、黙ってろ」
「!!」
むに、と親指と人差し指で挟むように顎へと手をかけられ、そのまま、熱い舌が挿入してくる。
「むぅ、んんぅ」
苦しくて開いた唇をさらに塞ぐように、噛み付くように唇全体を塞がれたらもう。
息も出来ないし。
苦しいし。
なのに。
斗真の舌先が口の中を撫でる度に生まれてくるのは甘い甘いしびれ。
逃げていたはずの舌先は、今はもっともっともっとと斗真を求めて擦り合わせ、斗真が流し込むトロリとした甘い蜜を、なんの躊躇もなく飲み込んだ。
「……キスだけで、自分がどんな顔してっかわかる?」
「……ぇ」
「雌の顔」
「………っ」
「理性捨てて、墜ちてこいよ」
「おちる……?」
「気持ちいいことだけ、考えてろってこと」