第1章 契約成立!?
ピンポーン
午後、4時。
バイトも全部キャンセルして。
学校終わってすぐにすっ飛んで帰ってきた。
幼稚園、小学生の妹と弟は、中学生の雷斗が今、公園に遊びに連れてってくれてる。
戦闘体勢を整えて。
深呼吸。
重い玄関の扉を、開けた。
「嵯峨野、來さんですね?」
「……ぇ」
『児童相談所の女の人』、だと思ってしていた心の準備は。
目の前のもう一人の女性によって木っ端微塵に吹き飛んだ。
だって。
なんで、警察?
「ご近所の方から通報がありました。こちらには、どなたとお住まいですか」
「え」
「嵯峨野さん、相談所の方でもあなた方は保護の対象となっているんです。保護者のいない、子供だけでの生活は基本、許されないのよ」
「保護、者…」
「そう。誰か大人の方、今どちらに?」
「お母さん、なら、います」
「お仕事?」
「そう、そう、です。いつも帰り遅くて、朝、も早いからたぶん」
だめだ。
震えるな。
堂々としなきゃ。
怪しまれるな。
「嵯峨野さん」
落ち着け。
止まれ、足の震え。
引きつるな。
「お母さんは今、病院に入院中ですね?お父さまは?いらっしゃらないの?」
「父、は……」
いる。
います。
そう、言わなきゃ。
言って、今すぐ帰って貰わなきゃ。
駄目。
バラバラになっちゃう。
引き離されちゃう。
「父、は…」
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
やれる。
あたしが、ちゃんとみんなを養える。
誰にも迷惑なんてかけてないじゃない。
誰にも頼らずに、やってきたんだから。
「……嵯峨野さん、残念だけど」
「ウチの親戚の子なんです」
「え?」
「父親が俺たちの血縁で。ウチで引き取ります。文句ないでしょう?」
俺、たち?
「え?」
玄関の向こうから響いた声に、思わず玄関から頭一個分、乗り出した。