第10章 すれ違い
「……っ、ぁあっ」
透の指先が胸の突起を掠める度に漏れ出る嬌声。
「だめ、口、離さないで」
透の膝の上で仰け反り顔を反らすあたしの後頭部を引き寄せて、透はまた深い口付けを、再開した。
もっともっと続けて欲しくて、自分から透の首に手を回してそれに応えれば。
後頭部に回された右手は、褒めるようにそのまま髪の毛ごと撫で上げた。
「ふ、んんぅ」
そのまま、甘い唾液が口の中へと流し込まれるままに、喉をコクンと上下に鳴らせば。
透は満足そうに唇を離すのだ。
「どーしたの?今日はずいぶん、積極的だね?」
「……だめ?」
「じゃ、ないけど」
「けど?」
「斗真がやきもち妬きそうだなって」
「………」
「ま、いいけど」
親指をあたしの唇に這わせたまま、少しだけ空いた唇の隙間から、人差し指を、押し込む透と視線を絡ませながら。
まっすぐにあたしを見据える透から視線を伏せて、人差し指へと吸い付く。
左手は、あたしの耳をやんわりと弄び、可笑しそうに吐息をこぼした。
「どーしたの?今日ヒートしてないよね?」
「あたしよりも良く知ってるでしょ。あたしの排卵日」
「まーね」
ふたりがそーしていたように、透の首筋へと唇を這わせ、その肌を食む。
少し屈んだせいで出来た隙間から、透の指先が直接胸へと宛がわれ、沈みこんだ。
「こんなとこでするなんて、よっぽどしたかったの?」
そのまま強く吸い付けば。
ぼんやりとではあるが、確かに付いた、あたしの印。
「誰かに見られちゃうかも」
「いいよ」
「ほんと、どーしたの」
「どーもしない」
透のシャツのボタンをひとつふたつ外してさらに肌へと唇を伸ばそうと、するけど。
「……っ」
半ば強引に押し倒されて。
柔らかくはない後部座席のシートへと沈んだ後頭部は、軽い衝撃を受けた。
「さっき愛莉と話してたのが、原因?」
あいり。
また、その名前。
起き上がろうと腕に力を入れるけど、狭い車内、両肘を押さえつけられたら、さすがに身動きが取れない。