第10章 すれ違い
「ライちゃん」
「嫌っ!!帰らないっ」
「何むきになってんの、お前」
「なってない!!」
「…………帰れ」
ずっと、こう。
斗真の心が全然わかんない。
近づけたと思えば、また遠ざかる。
かと思えば、勝手に至近距離まで入ってくるくせに。
あたしが入り込むことを、決して許してくれないんだ。
「ライちゃん、斗真まだ病み上がってないから」
「……」
「ライちゃん」
「………また、来るから」
「もう連れてくんな、わかったな」
「ハイハイ」
「とーる!!」
「いいから、帰ろう、ライちゃん」
「…………っ」
なんで?
なんでなんでなんで??
ずっと、目も合わせてくれない。
「あたし、なんかしちゃったかなぁ?」
『しちゃった』、ことはしちゃったけど。
なら透だって、同罪だ。
だけどなんであたしだけ?
「嫌われちゃったのかなぁ?」
『飼い主の言葉を聞けねぇバカ犬はいらねぇ』
やっぱり。
あたしはペット、でしかないのかなぁ。
「ライちゃん」
隣を歩く透の掌が、包み込むようにあたしの掌に重なる。
「斗真はね、ライちゃんが心配なんだよ」
「ぇ」
「大丈夫。斗真があんなに誰かに執着するのは珍しいから。」
「………そう、なの?」
「うん。好きと嫌いは、イコール、でしょ?」
「え?」
「それにねライちゃん、こんなにいっぱい人がいる前でそのかわいい泣き顔、晒すもんじゃないよ」
「ぇ」
言ってる意味がわかんなくて、ポカンと、隣を見上げてみれば。
悪戯に目を細めて、透もその視線をあたしへと向けた。
「もー少し。駐車場ついたら、抱きしめてあげる」
「……ッッ!」
な……っ!
なんてことを、さらっと……っ
こっちのが逆に恥ずかしくて、涙も止まるって。
ふい、とぎこちなく反らした視線。
ふ、と。
目の前が暗くなったかと思えば。
触れるだけの、ほんとに羽みたいなキスが降ってきた。
「大丈夫、見てないよ。涙、止まった?」
「な、な、な……っ!っ、トイレっっ!!」
クスクスとばかにしたような笑いを背中に感じながら。
顔面に集中する熱を冷ますためにひとり、トイレへと駆け込んだ。