第10章 すれ違い
『ライ』
それが何を意味するか、知ってる。
「前に俺がつけた傷、治った?」
「……った、よ?」
声が、上擦る。
「見せて」
「…………っ」
否定する権利なんて、与えられる間もなく。
シュルリと制服のリボンもボタンも外されて。
露になったその場所へ、透の舌が這う。
「透……っ、ぁの」
「お願い」
「………っ、ぇ」
「痛いんだ、切ったとこ」
「……切った?」
「疼くんだよ、同じとこ」
「…………」
視線を目の前の斗真へと移せば。
酸素マスクを曇らせながら痛みに歪ませる、苦痛の表情。
「お願い、ライ」
どちらか片方が怪我すれば、もう片方へもその痛みが繋がる。
前にどこかで聞いたこと、ある。
「ライの匂いで、充満させてよ、この部屋」
そうだ。
あたし、『玩具』、だし。
ペット、だし。
拒否する権利なんて、もともとなかったんだっけ。
ここが病院だとか。
目の前で真っ白な顔した斗真が眠ってるだとか。
そんなのただの言い訳で。
こんなに弱りまくってる透をほっとけない、とか。
そばにいてあげたい、とか。
そんなのただの、体裁、で。
『あたし』が。
そう。
あたしが、透を欲しがってるんだ。
あいり。
あんな女になんか、負けない。
女の弱味につけこむ男たちの気持ちは、まんまきっと今のあたし、だ。
「抱いてよ、透」
自分がこんな浅ましい女だなんて、初めて知った。
こんなに嫉妬深くて。
独占的の塊があたしの中にこんなにも根強くあったなんて、知らなかったよ。