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愛玩彼女

第10章 すれ違い


『あたしたちの世界』。


今そう、言った。


どーしよう。
振り返れない。
彼女の顔が、見れない。


『子供ならいくらでもいるから』。

なら、彼女も?
彼女も、血の繋がった兄妹ってこと?


「ライちゃん、座って」
「……」
「透、そんな女『ここ』に連れて来る資格ないよ」

「資格がいるなら、キミこそその資格ないんじゃない?」
「ぇ」
「キミこそ、ただの玩具でしょ。弁えなよ、立場」
「なに………」
「ただの玩具にすぎ無かったキミがさ、親族の控え室になんてよく来れたね」
「何いってんの?意味わかんない……、あたしは」
「『ただの玩具』それ以外になんかあった?」
「………っ」



透はいつも冷静で。
穏やかで。
人あたりも、よくて。
だけどそれと同じくらいに、すごく冷酷な時が、ある。
いつもの笑顔を崩さずにいい放つのは、突き刺すような刺と、棘。
瞳にたたえるのは背筋を凍らせるくらいの、冷淡さ。


「『ありがとう。あとは大丈夫』だから」


もう帰れ。
あたしにはそう、確かに聞こえた。
きっとそれは、彼女にも。



唇を噛みしめたままに、おっきな瞳に溢すことなくその涙をたたえ、彼女が狙いを定めたのは誰でもない、あたし、だ。
その突き刺すような視線を遮るように。
透はあたしと彼女の間へとその体を忍び込ませると。


「!!」


徐に唇へと吸い付いたのだ。
驚きで全身の力が抜けた瞬間を逃さずに。
透は難なくあたしの口内へと侵入し、舌を絡めていく。


「………っ」



さすがにこれは、あたし抵抗するところだよね?
人にキスシーン見せつける趣味、ないよ?





抵抗しようと手を伸ばした瞬間に。
大袈裟に扉の閉まる音。
同時に唇はゆっくりと離れて行った。


「ライちゃん、ごめんね」


心からの謝罪なのか、今はその判断材料すら乏しくて。
素直に頷くしかあたしには出来なかった。
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