第10章 すれ違い
「入院てなんで?どっか悪いの?あ、朝のあれ?」
「ライちゃん、質問はひとつね」
「斗真、具合悪いの?」
「悪くないよ?」
「なんで入院なの?」
「体裁、ってやつ?」
「?」
「俺たちの父親さー、ほんっと最低なやつでね。昔から健康とは無縁でね、病気するたびに俺たちのパーツ、取ってくんだよ」
「………は?」
「今度は、肝臓って言ってたかな」
「待ってそれ!!斗真の体、切られちゃうの?肝臓、あげちゃうのっ??」
「一部だけね」
「何それっ!止めさせなきゃ!!」
淡々と前を見ながら運転に専念する透はすごく冷静で。
びっくりするくらいに、冷静で。
「………よく、あるの?」
「まさか。そう何度も臓器あげらんないでしょ」
「だよ、ね」
当たり前の切り返しに安堵したのも束の間。
透の口から出たのはおぞましい、言葉たち。
「いろんなとこに子供作ってるから、『替え』ならいくらでも『ある』よ」
ああ、駄目だ。
吐きそう。
「大丈夫?車止めようか」
口元を押さえてのざえたあたしの背中をさすって、すぐに車は路肩へと停車した。
直後。
崩れるように車から降りてそのまま土の上へと嘔気づくも、出てきたのは唾液のみ、で。
後味悪くひっかかったままだ。
「大丈夫?」
違う。
あたしは当事者じゃないのに。
当事者は。
「……絶対そんなの、間違ってる」
「そうだね。でもどうにもならないんだよ」
「斗真は?」
「受け入れてるよ。今頃多分、手術中」
「………ぇ」
「昨日食欲なかったのも、朝だるそうにしてたのも。今日のために胃の中空っぽにする必要あったから。だから斗真は元気だよ、心配しないで」
「透、は?」
「俺?」
「透は、いいの?」
「やだ、って言ったら、なんか変わる?」
「…………っ」
これが、ふたりのいる世界。
同じ世界にいないあたしに、ふたりに何かを求めることすら、おこがましいのかもしれない。
これが、ふたりの生きてきた世界。
あたしは口出しすることすら、許されない。