第7章 崩れた関係性
教室を出ようとする斗真を駆け足で追いかければ。
彼は無言であたしの腕を掴んで、そのまま早足で歩きだした。
斗真の足の歩幅とあたしの歩幅じゃあまりにも差がありすぎて。
駆け足でも斗真の歩幅に合わせるのはけっこうな、試練で。
駐車場へとたどり着いた時にはもう、だいぶ酸素不足な状態に陥っていたんだ。
なのに。
車に乗り込んだ途端に荒っぽく重なる唇は、あたしからさらに酸素を寝こそぎ奪っていく。
「ふ…っぅ、ぅんん」
背中をグーで殴って抗議しても。
唇を離そうとしても。
あたしのささやかな抵抗なんて、斗真には赤子相手にでもしてるように、びくともしない。
「ん、んんぅ、んぅ」
も、駄目。
息出来ない。
死んじゃう、ほんと。
「……まっず」
「……っは」
やっと離してもらえた唇から、欲しかった酸素が肺へと行き渡る。
その間、胸を押さえて肩を激しく上下するだけで精一杯で。
溢れ出す涙を拭う余裕も。
口の端からこぼれ落ちた唾液を拭う余裕も。
あいにく持ち合わせてない。
「お前あいつに、何された?」
「………っに」
旨く呂律が回らない舌を必死で動かすけど。
やっぱりまだ声帯は機能してくれないみたいだ。
「なんでお前、そんなに甘い匂いさせてんの?ヒートはまだ、先だよな」
「……っ」
「あいつになんかされた?」
声が出ない。
酸素を取り込むのに必死で、声帯が機能しないんじゃなくて。
刺さるような斗真の視線が、怖くて。
「それともあいつ、お前の彼氏?」
声にならないかわりに、必死で首を横へと振った。
「じゃぁなに?あいつに襲われて、感じたわけ」
「………っ」
「俺たちだけじゃ、足んないってこと?」
「違うっ、斗真、違うの」
「触んな」
凍るような瞳と、低い声。
体がビクンと、震えた。
「他のやつの匂いさせて、触んな」
「………っ」