第2章 楓。
俺は相変わらずあのベンチに通い続けていた。
雪がシンシンと降り続く日の事だった。
ベンチに懐かしい小さな後ろ姿を見つけた。
そう。彼女だ。
「あの!!」
俺は嬉しくなり、思わず声をかけた。
振り返った彼女はいつものようにクシャっと笑った。
「やっぱり会えると思った。久しぶり。」
彼女は嬉しそうな顔をしてくれた。
どうやら嫌われてたわけではなさそうだ。
「本当に久しぶりですよ!どうしたんですか?俺ずっと待ってたんですよ!」
「ごめんねー。ちょっと体調が優れなくてさぁ。外出れなかったんだぁ。」
彼女はまた寂しそうに笑った。
「…。」
「あのね、伊月くん。君には話しとかなきゃと思って。今日は特別に外出許可もらったの。」
彼女はうつむいた。
「え…?」
何かよくない報告って事はすぐにわかった。
「あのね。私、恋をしてしまったの。それでね、病気が治らなくなってしまったの。」
「…。」
「私の病気はね。脳の病気なの。手術をしたら治る病気なの。でもね、手術をすると今までの記憶がなくなってしまうの…」
彼女の声は微かに震えていた。