第1章 前編
驚いた。
彼が「ここが俺の家です」と笑顔で入って行った場所、それはあの有名なカプセルコーポレーションだったのだ。
まだ会社自体は再開していないらしく所々まだ建設途中らしい箇所が見られたが、それでもこの大きな外観には圧倒されてしまった。
確かここの社長は女性だと聞いたことがあった。……母もいますから、と言った彼。
(ということは、彼はここの息子ってこと?)
……なんだか凄い人と知り合いになってしまったようだ。
「ただいま。母さんいる?」
真正面の大きなエントランスとはまた別の、それと比べれば小さな玄関から建物内に入ると、彼はまずそう言って声を上げた。
すると、程なくしてパタパタという足音が聞こえ、彼と似た髪色の女性が笑顔で顔を覗かせた。
「お帰りなさい……あら? お客さん?」
そう言った彼女はこんなに大きな息子がいるとは思えないほどに若々しかった。
「あ、どうも、初めまして」
なんて挨拶していいか分からずに、とりあえずお辞儀をしながら無難なことを言っておく。
「初めまして、いらっしゃい! トランクスったら、な~に? ガールフレンド?」
「は!? ち、違いますよ!」
(あ、真っ赤)
彼は顔を真っ赤に染めながら、ニヤニヤしている母親に向かって続ける。
「彼女、何日も何も食べていないって言うので、何かご馳走しようと思って連れてきたんです!」
「あら、そうなの? それは大変ね。どうぞ上がって! 今、何か作ってあげるわね!」
そう言って彼女はまたパタパタと消えて行ってしまった。
(……なんというか、元気なお母さんだな)
瞬間、頭の中に自分の母の姿が蘇る。
私の母はあそこまで元気ではなかったけれど、でもいつも優しく笑っていた。
「、さん?」
「え? あ」
心配そうにこちらを見ている彼に気付き、私はハっとなる。
危うく暗い気分になってしまうところだった。
「すいません、嫌な気分にさせちゃいました?」
「あ、違う違う! ただ元気な人だなって思っただけ。とっても綺麗なお母さんね!」
「あはは、ありがとう。聞いたら喜びますよ」
そして私は彼の母、ブルマさんの作ってくれた温かくて美味しい料理をお腹がいっぱいになるまで食べた。