第1章 前編
長く旅を続けている間に、手持ちのお金は全て使い切ってしまった。
食べ物を絶ってから今日で何日目だろうか。
しかも先ほど余計な運動をしたせいで、とうとう限界に来てしまったではないか。
改めて先ほどの男に毒づいているときだ。
「大丈夫ですか!?」
目の前に人影。
ゆっくり見上げると、その向こうの空と同じ澄んだブルーの瞳があった。
紫色の髪をした青年が心配そうにこちらを見下ろしている。
そのキレイな外見に思わず見とれてしまい、私はすぐに返事が出来なかった。
それを、自分を不審に思って私が答えないのだと勘違いしたらしい彼は、慌てた様子で続けた。
「あ、その、さっき、そこで君を見かけて、強い人だなぁって思って目で追っていたら急に座り込んじゃったから、本当はどこか怪我をしたんじゃないかと思って」
そうか。さっきのギャラリーの中に彼もいたのだ。
私はこれ以上心配をかけないようなるべく笑顔で答える。
「いや、大丈夫。ちょっと、お腹空いちゃって……ここ数日ろくに食べてないから」
はは……と苦笑すると、彼は驚きと安堵とが混ざった複雑な表情を浮かべた。
「それは大変ですね……。良かったらウチで何か食べます? 俺の家ここの近くなんですよ。……あ! 母もいますから安心してください!」
慌ててそう付け加えた彼は悪い人には見えなかった。
私はその優しい言葉に甘えて、彼の家にお邪魔することにした。
彼の名前はトランクスというらしい。
私の名前を告げると、彼は「いい名前ですね」とそれこそ使い古されたような臭いセリフを綺麗な笑顔で口にした。
でも彼が言うと自然で、嬉しいとさえ思えた。