第3章 後編
もう、型も何もなかった。
まるで子供の喧嘩のように私はめちゃくちゃに拳を振るっていた。
「もう、止めにしましょう」
そう聞えて、霞んだ目を上げると彼を纏っていた金色の光が消えていた。
そこには、優しく澄んだブルーの瞳があった。
「なんで……、何で戻っちゃったの!? まだ終わってない! まだ闘える!! 早くもう一度金色の戦士になってよ!!」
彼の胸元を掴み上げ私は大声で叫ぶ。
「さん」
こちらを気遣うような、酷く優しい声音。
「無理ですよ。貴方じゃオレに勝てない。もう終わりです。……もう、終わりにしましょう」
「いや、嫌よ!」
「オレを殴って気が済むなら、貴方がそれですっきりするのなら、気が済むまで殴ってください。でも、きっと、それじゃあ貴方は救われない」
「わたし、は……」
しゃくりあげながら彼の足元にずるずると落ちていく。
彼を殴りたいわけじゃない。
彼と、闘いたかったわけじゃない。
――わかっていた。彼に敵うはずがない。
本当はずっとわかっていたんだ。
私なんかがいくら修行したところであの人造人間に……そして、目の前に居る金色の戦士に敵うはずがないと。
でも、それでも、家族を失った悲しみを、行き場の無い哀しみを、何かで埋めたかった。
でないと、生きていられなかった。
「」
優しい声音とともに、身体が懐かしい香りに包まれた。
それは、忘れかけていたお母さんの香り――。
「一人で辛かったわね」
耳元で聞こえるその声は、母のものに似ている気がした。
「ずっと一人で、頑張ってきたのよね。えらかったわね」
お母さんに抱きしめられているようで、さっきとは別の熱い涙が溢れてくる。
「頑張って生きていてくれて、ありがとう」
抑えられなかった。
まるで叫ぶように、私は声を上げて泣いた。
涙は、あの時枯れたと思っていた。
まだこんなに残っていたんだ、そう思うほどに、私は酷くかっこ悪く、泣いた――。