第1章 チョコレートに繋がれた
それじゃあ、といろいろ乗せたトレーを持ち上げたら、透ちゃんに呼び止められた。
「これ、自分で渡さなくていいの?」
「え」
……今彼女はどんな顔をしてるんだろう。どんな気持ちでそれを言ってるんだろう。あたしの気持ち、バレてるの?
そんな焦りを笑顔で隠しつつ、なんのこと、と聞いてみる。
「耳郎ちゃん。見てなかった?」
「へぁ!?」
「やっぱり~。だから直接じゃなくていいの?って聞いたの!」
「ち、ちがっ、それはそういうんじゃないから!」
思わず変な声が出た。なんでそれ気付いちゃうかなぁとか、わかりやすかったかなぁとか、もっと自制しろあたしのバカ!とか、いろいろ後悔しきりだけど、とりあえず首を横に振って否定する。
たしかに見てたけど、チョコはそういう意味じゃない。断じて。
「でもでも、お話しするきっかけになるよ?」
「そそそそんなのいくらでもあるからっ! それはほんとに、ただのおすそわけなの!」
こうなったら意地でも認めてやるもんか、なんて謎の対抗意識を芽生えさせる。あたしってばなんでこう無駄な嘘つくかなぁとか呆れてる自分もいるけれど、にやにやしてる(ような気がする)透ちゃんを前に、あとには引けない。
「こ、紅茶冷めちゃうから行くね! またあとでねっ!」
これはもう逃げるが勝ちと、それだけ言い残してそそくさとその場を立ち去ってしまった。彼女の反応を確かめることもしない。
思い返せばわかりやすすぎる態度をとってしまったけれど、後の祭りだ。
なんか恥ずかしすぎていたたまれなくなってきた……もう、とっとと課題終わらせて部屋に引きこもってやる!
***
真っ赤な顔で戻ったからか緑谷たちに心配されたけど、なんでもないと言い張って乗り切った。
紅茶とチョコで心を落ち着かせて、緑谷先生指導のもと課題に取りかかる。今度は意外と集中できて、思ったより早く勉強会がお開きになった。
「そういえばさ」
机に散乱した筆記用具を片付けてたら、上鳴が声をあげる。
なんだろうとそちらを見たら、なぜか目があった。あたしに話なのだろうか。あ、そりゃそうか、もうあたしと上鳴しか居なかったわ。
でも何の用だろうかと首をかしげると、思わぬ爆弾が落とされる。
「さっき言ってたカッコイイって、俺じゃねーなら誰のこと?」
「は?」