第1章 チョコレートに繋がれた
「……かっこいーなァ」
「えっ」
寮の共有スペースでシャーペン片手にぼんやりしていたら、思わず口から想いがこぼれ落ちてしまった。驚いたような声が聞こえた気がするけど、誰なのかすら確認する気になれない。
あたしは今、友達と楽しそうに話すあの子に夢中なのだ。
「なになに、カッコイイって俺のことッ!?」
「上鳴は黙ってて」
「ひどっ!」
口に出してから、あー、今の上鳴だったんだ、と気付く。そういえば今、こいつらと勉強してるとこだった。思い出してようやく視線を戻すと、先生役の緑谷が苦笑してる。
「あー、ごめん、センセー」
「いや、いいんだけど……大丈夫? 集中切れたなら、少し休憩入れようか」
「そうしてくれると助かるかも。ちょっとお茶いれてくるね」
正直完全にやる気途切れてたよね、こっちから頼んだのに申し訳ない。
緑谷の気遣いを素直に受け取ったあたしは立ちあがりキッチンへ。取って置きの紅茶と間食のチョコでも持っていこう。
「あれっ、イザナちゃん。緑谷たちと勉強会じゃなかったの?」
「透ちゃんこそ、みんなとお話してるのかと」
黙々とお茶の準備をしていたら、ひょっこり現れたのは透明少女の透ちゃん。彼女はさっき、あの子たちと楽しそうにしてたはず。
不思議に思って聞き返すと、あたしと同じ理由で席をはずしてきたらしい。
「そっか、そっちもティータイムなんだ」
「休憩は必要だもん……なんか集中できなくなっちゃってさ」
あは、と笑ってごまかしつつ、冷蔵庫からチョコを取り出す。チロルとかアルファベットじゃない、ちゃんと箱に入ったお高いやつ。紅茶だけじゃなくて、こっちもとっておきのおやつだ。
せっかく休日の時間を使ってくれてるんだし、これくらいはね。
「はい、透ちゃんたちにもちょっとだけわけてあげる」
「わ、いいの? ありがと~っ!」
ちょちょいと小皿に取り分けたのを差し出せば、すっごく嬉しそうに笑ってくれた。たぶん。きっとそう。あたしの心の目がそうだって言ってる。
どういたしましてと愛想笑いを返して、自分のとこの準備を済ませた。早く戻って一息ついて、課題終わらせちゃわなきゃ。