第9章 王の射手
王の、御成?
カゲヤマが、王?
「どういう意味ですか?」
「見れば分かる。アオネ、上らせてやれ」
アオネさんは頷くと、先に窓から馬車の屋根に上って、俺の手を引いて上らせてくれた。
馬車の上では、ケンマが片膝をついて杖を立てていた。追い風だからフードが取れないのか?
ケンマの向く先には、弓構えの姿勢をとったカゲヤマがいた。
紫色の光を帯びた弓と、羽の黒い矢。
かなりの速度で走行する馬車の上にも関わらず、重心が全くブレない体幹。
見据える先には、王都で会ったワイバーン。
カゲヤマは軽く弓を引く。そして、大きく腕を広げながら、矢を顔に横づける。
これが弓道であれば、ため息が漏れるほど美しい『会』だろう。しかし今回は弓術。そうは言ってられない。
カゲヤマが放った矢は、右に回転しながら紫色の光を纏って、真っ直ぐ、風の妨害も受けずに、ワイバーンへ飛んでいくが、
ゴウッ
ワイバーンが密かに、口内に貯めていた炎で矢は燃やされた。
そして、その咆哮は俺たちの馬車を包み込む。
熱は感じなかった……のもそのはず。
ケンマの張った防御結界のお陰で、馬車は無事。火炎放射による被害はなかった。
半透明なガラスの破片が弾け散る。
「もう1回だ」
「これを外したら、次は無いよ」
カゲヤマは矢をつがえながら、ケンマは結界を張り直す。馬車が半透明なドームに覆われた。
カゲヤマが紫色の光を纏う弓に、矢を番て弓構えの姿勢をとり、ワイバーンを睨んだ、その時。
「追いついた!!」