第3章 魔物の脅威
目を開けると、涙でぐしゃぐしゃになったヤチさんと目が合った。
「ヒナタぁ!!」
「ぐえっ」
突然あごに頭突きを見舞われた。
「やっちゃん落ち着いて。ヒナタ、気分はどう?」
スガワラさんがヤチさんを引き離して、俺の顔を覗き込む。
気分。気分は……
「最悪です」
「え」
その瞬間、スガワラさんは縮こまるアズマネさんに強烈な足技をいれる。
「ぐはっ」
「見せるタイミングってもんがあるじゃろ!」
「す、すみませーーー」
「スガの言う通りだこのヒゲちょこ!」
「え、ちょ、ヒゲっておわっ」
スガワラさんに次いでサワムラさんもアズマネさんを蹴る。扱いが酷すぎる。
「ヒナタぁ!よかったぁ!生きてるぅ!」
ヤチさんはぼろぼろ泣いている。
アオネさんは行き場のない両手を小刻みに震わせている。
「……迷惑かけてすみません」
「何言ってんだよ」
俺が謝るとスガワラさんに小突かれた。
「前も言った通り、仲間ってのは迷惑かけてナンボなんだから。謝る必要ない。強いて言うなら、“ありがとう”くらいは欲しいな」
スガワラさんはニカッて笑った。
俺の胸の内側が温かくなるのを感じる。
「ありがとうございます……」
直後、ヤチさんがとんでもない事を言った。
「ヒナタは今日1日ゆっくり休んで!宿は私とアオネさんに任せてよ!」
「えぇっ!?そんなことできないよ!ちゃんと働ける!」
俺が反論してもヤチさんは聞いてくれない。
「今、雪ヶ丘村の事で話題が持ちきりなんだ。また旅人に変な事吹き込まれて苦しむヒナタは見たくない!」
これは、ヤチさんなりの優しさだ。分かってはいる。分かってはいても納得いかない。
「これはヒナタだけの問題じゃないってのを理解してくれ。俺は今日1日、暇を貰ってきたから宿を手伝う。だから安心してヒナタはゆっくり休んでくれ」
スガワラさん……!
「おい、スガ。まさかとは思うが、エンノシタに押し付けてきたんじゃないだろうな?」
「…………そうとも言う」
スガワラさん……
サワムラさんは大きく溜息を吐いた。