第6章 振り回される(日吉/跡部)
またしょんぼりして下を向くと、まだ日吉の腕が回っていた。
ま、まさか着くまでこの体制なのか?!
ガタガタンッと音がして、電車が大きく揺れる。
バランスを崩した乗客に押された日吉は、とっさに右腕をドアに付け、めいことの間に空間をつくった。
外の景色に気を取られているめいこには、頭上でそんなことが起こっているなど知る由もない。
しかし肩を抱かれたままなので、既にコレだけで照れていたのだった。
めいこ「きょ、今日天気いいねー」
照れ隠しに何でもない話題をしだす。
日吉「....お前の頭がか?」
めいこ「へ?」
日吉「あぁ、悪い。『いつも』だったな」
めいこ「なんか、嫌味に聞こえる」
日吉「そのつもりだ、能天気」
めいこ「ガーン!」
勢いよく見上げると、日吉が片方の口角だけ上げていた。
日吉「フッ」
めいこ「もーなんだよ皆して。ぶちょーにも能天気って言われたし」
日吉「跡部部長?他にもなんかやらかしたのか、お前は」
めいこ「う...」
日吉「何やったんだ?」
めいこ「心当たりが多すぎて言えません...」
日吉「お前は...頼むから迷惑はかけるなよ」
めいこ「あい」
「次は##ー##。お出口は左側です」
日吉「次の駅で一旦出よう」
めいこ「そうだね」
都市部の駅につくと、一度電車から降りてドアの横で待つ。
大勢の人が降りて、車内はいくらか空いた。
めいこ「やったー座れるー」
ドア付近の席が空いたので、腰掛ける。
日吉は自分のテニスバックをひょいと荷棚に上げた後、めいこに手を差し出した。
日吉「お前は?」
めいこ「あ、ちょっと待って」
エナメルバックから本だけ取り出して、日吉に渡す。
めいこ「はい、ありがとう」
日吉「意外だな、本読むのか」
上に乗せながらそんなことを言う。
めいこ「読むもん!」
ドアが閉まり、電車が走り出す。
日吉「なら、俺も読むか」
ジャージのズボンから本を取り出すと、めいこの隣に座って読み始めた。
めいこ「次って何処の駅で降りるんだっけ?」
日吉「###だ。まだ20分くらいかかる」
そうして、2人は無言で読書をしだした。