第5章 【過去】出会ったとき(跡部/鳳)
さっきの女の子が、2人抜かれていたのだ。
女の子はショックのあまり、泣きながらこちらに走ってくる。
突然、めいこの闘争心に火が付いた。
前を見据えたまま小走りでバトンを受け取ると、弾かれたかのように駆け出す。
次に走る跡部達はスタート地点へ移動していた。
跡部「おい、誰だあいつは?」
向日「あれ?うちのマネージャーじゃねーじゃん」
宍戸「さぁ?知らねーな」
1番前を走る選手とかなり距離がある。
2位を走る選手も余裕なようで、観客に笑顔で手を振っている。
ビュンビュンと風の音が耳に入る。
声援が遠く、周りは白くぼやけ、前を走る選手だけが映る。
ゆゆか「めいいけーっ!ぬかせーっ!」
もう少し、あとちょっと!
滝「うそぉ?!」
めいこの足音がすぐ後ろに迫ってきたことに驚いて振り向いたが、もう遅い。
コーナーで並び、走る体制を崩してしまった滝は、そのまま応援席の目の前で抜かされた。
ワアアア!と大きな歓声が上がった。
ゆゆかは飛び跳ねている。
跡部「ククッ萩之介...」
宍戸「激ダサだな」
向日「滝が油断したにしても、あいつ速ぇな」
先程めいこが泣いている女子生徒に、大丈夫だと自信に満ちた顔で言っているのを跡部は見ていた。
跡部「そういうの、いいじゃねーの」
渾身の力で走ったけど駄目だ、1位が遠い。
距離は詰めたが1位はもうバトンをラストのアンカーに渡していた。
向日「跡部おさきっ!」
跡部「フンッ」
赤のタスキをかけた向日は走り出す。
ラストはグラウンド2周分の100メートルだ。
直ぐ後ろに息を切らしためいこが走ってきた。
スピードを落とさないまま、2人はバトンを受け渡す。
めいこ「跡部先輩勝って!」
跡部「当然だ!」
1番大きな歓声の中、跡部は駆け出す。
めいこはその勢いのまま、左の走り終えた選手に向かって突っ込んできたので、皆「うわぁ!」と避けた。
鳳「おっと、大丈夫?」
誘導係の鳳が、止まりそこねためいこを受け止めた。
めいこ「はーっ、はーっ、あ、ごめ、」
鳳「ううん、すごかったね!」
鳳は目をキラキラさせている。
めいこ「どう、も」
鳳「あのさ、めいって呼んでもいいかな?」