第33章 【番外】そんな暗い顔しないで(鳳)
めいこ「そっそうそう!」
本当のことなのに一瞬変な空気になったせいか、大袈裟に首を縦に振ってしまう。
鳳「じゃ、また後日。お疲れ様」
めいこ「おつかれー!」
鳳は石山に会釈すると、足早に帰っていった。
石山「…やっぱ何かあったべ」
めいこ「ないって!」
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後日、鳳と会う約束をして、学校最寄りの図書館に来ている。
お互い向かい合って、スケッチブックに描き込んでいく。
めいこ「鳳君てまつ毛は黒いんだね〜」
鳳「う、うん…」
鳳はしどろもどろになりながらスケッチしていたが、ふと手を止めた。
鳳「和栗さん、あの…その表情は一生懸命描いてるからだと思うんだけど、このままだと困ったような顔の肖像画になっちゃいそうなんだ」
めいこ「えっ!」
めいこは自分の顔を意味もなく触りまくった。
鳳「俺、和栗さんの笑ってる顔好きだな」
めいこ「うーん、でもずっと笑ってるのって結構むずくない?」
鳳「あ、確かに…ごめん変なこと言って」
めいこ「じゃあさ、今笑ってる写真送るよ!表情だけ取って、後は今見ながら描けば?そしたらずっと顔見なくても、何より家に帰っても続きができる!」
鳳「確かに。それなら俺も送るよ。でも人の目の前で自撮り、照れるなぁ、ははは」
めいこ「もういっそツーショットにしよ?」
鳳「ははは!名案」
そのまま笑いながら、並んで鳳が(腕が長いので)スマホのシャッターを押す。
帰る間際、鳳にスケッチを見せてもらうと、髪が少し靡いて、無邪気に笑うめいこがいた。
めいこ「うまー!」
鳳「ありがとう。和栗さんもね。俺こんな顔してるんだ」
めいこ「そうだよ!破顔な笑みはまるでワンコ!」
鳳「ワンコかぁ…」
めいこ「うん、だって宍戸先輩も言っt…」
鳳「駄目だよ」
鳳は少し目を細め、見たことのない表情になった。
鳳「今は俺との時間でしょ」
めいこ「うぐ」
鳳「なんて、ごめんね。そんな顔しないで。帰ろ」
鳳はまた、いつもと同じ顔になった。
お面みたいに、まだ自分の知らない表情があるのだろうか。
怖い気もするが、見てみたいと思うめいこだった。
【END】