第29章 付いてくならトコトン(跡部/千石)
その日、ぶちょーは来なかった。
他のレギュラー陣も時間バラバラに、ちらほらという感じ。
夏の大会が終わったら、受験モードに突入する3年生が大勢いるというのは、よく聞く。
榊監督から伝えられたあの話は、部員達にはまだ内緒だから無理もない。
ましてうちの学校は、高校もあるとはいえ小中の時のようにエスカレーター式で上がれる訳では無い。
厳しい試験を受けて、上位のひとだけが入れる。
勿論、高校から入ってくる秀才もいるのだから、今のメンバーが全員必ず合格するとも限らないし、他を受験するかもしれないし。
少し部内の空気が変わり、なんだか気分が落ち込んだ。
来年は私なのかーという意味でも。
そんな中で、とりわけぶちょーはお家の事情がすごそうだ。
私達じゃ考えられないような道が既に用意されていて、もう、こうやって一緒に部活なんかしないのかもしれない。
そういえば、駅前の塾の看板に「受験まであと151日!夏休みが鍵!」なんて書いてあったっけ。
いや、逆にぶちょーはあの大会を実は悔やんでて、違うところで猛練習してるとかは?
うーん、悔やんだりするかな。
なんか、学びはするけど後悔はしなさそう。
あ、後は用意されてる道に反発して、テニスに打ち込んでるとかは?
いや、いっそ両方叶えるためにどっちも猛特訓してるとか…。
そんなことを考えながら、のろのろとグラウンドにトンボをかけていく。
鳳「和栗さん」
鳳が後ろから、トンボをかけながらやってきた。
めいこ「あー、おつかれー」
鳳「なんだか今日、ボーっとしてたね」
めいこ「え、そう?」
鳳「うん、今もボーっとしてたし。大丈夫?」
めいこ「ありがと、ちょっと色々考えてただけー。別に大した事じゃないよ?」
鳳「そう?なら、いいんだけど。跡部さんの事でも気にしてるのかなと思ってさ」
めいこは少しドキリとした。
鳳君、もしかして鋭いのだろうか。
鳳「今日、宍戸さんも来なかったし、俺と同じ感じかなと思ったんだけど…」
めいこ「あー、うーー」
この毒気の無いワンコのような、鳳君に濁してしまうのは気が引ける。
ほんとに、大した事じゃ無いし。
めいこ「うんまぁ、うん。ぶちょーのこと考えてた」
鳳「そっか、やっぱり」
鳳君は、何故か残念そうな表情になる。