第26章 レポート書いてたはずです(財前/跡部)
「何スか」
めいこ「いっ?!」
驚いて雑誌で顔を隠すと、黒い短髪の少年は、ムスッとした表情でこちらを見ていた。
心臓がギュっと縮まった気がする。
「ずっと見とりましたよね?」
めいこ「み、見てない」
「あ、そーッスか」
彼が横を向くと、耳にはピアスがめちゃんこ空いていた。
しまった、ヤンキーだったか?
ピアスつけただけでヤンキーと決めつけるのもどうかと思うのだが、でもどう見ても中学生か高校生だろうし、うちの氷帝でピアスつけて登校しようものなら、いや、穴を開けただけでどうなるか分からん。
「音漏れてたんなら、ハッキリそう言うて下さい」
めいこ「え?」
少年は少し恥ずかしそうに、耳に直接差し込むタタイプの小型イヤフォンを外した。
めいこ「え?あ、いや、そうじゃなくてえっと、コレ!」
めいこは先程見ていた雑誌を広げてみせた。
少年は訝しげに覗き込む。
「好きな人を視線で振り向かせる技?...ふーん」
めいこ「お、面白そうだったから、ちょっと、やってみたくなって...すんません」
「初対面の人に言うのアレやけど...アホっすね」
めいこ「アホ?!」
少年はフッとわずかに笑った。
「あんた、何年生?」
めいこ「中2です」
「え?マジで?タメかいな」
めいこ「えぇっ?!落ち着いてるから年上かと思った!」
「俺は小学生かと思うたわ」
めいこ「なっ」
「....俺、財前光言うんやけど、名前は?」
めいこ「和栗、めいこです」
財前「んー、ほんじゃめいこ、1人?」
めいこ「は、はい」
財前「ならこのまんま相席してもええ?」
財前はテーブルをトントンと軽く叩く。
めいこ「え、あ、はぁ、どうぞ」
財前「おおきに」
財前はゆっくり立ち上がると、自分のマグカップとレシートを持って、移動してきた。
再びイヤフォンを耳に差し込むと、「音漏れとらん?」と、確認してくる。
コクリと頷いてみせると、再びスマホに視線を落とした。
えっと....あたしもレポートの続き、やっていいのかな。
雑誌を横に置いて、レポートを再開する。
しばらく店内の柔らかい音と、シャーペンで紙を滑らせる音だけが響いた。