第21章 【パラレル】豹のお兄さん(黒羽)
めいこの横には、太陽でキラキラと輝く透き通った海が、防波堤から見えていた。
めいこ「うわー、キレー」
黒羽「ん?嬢ちゃんどっからきたの?」
めいこ「あ、東京です」
黒羽「東京かー!じゃあ綺麗な海は新鮮かもなぁ」
めいこ「そうですねぇ...」
黒羽はラジオをオンにして、サングラスをかけた。
今時タレ目サングラスとか!おじさんかて!いや、似合ってるけど!
しばらくしてスピーカーから流れてきたのは、しんみりとした夏の失恋ソング。
黒羽「かーっ!湿気てんなー」
そう言いながらチャンネルを回すと、今度は年配の笑い声が聞こえてきた。
どうやら落語の公開ラジオ番組らしい。
黒羽は時々、ハハハ!と愉快そうに笑う。
めいこはその声につられ、手の痛さなんかちょっと忘れて、いつの間にかケタケタと笑っていた。
黒羽「可愛いのな」
めいこ「え?」
独り言のように呟いた黒羽は、サングラスの隙間からチラリとめいこをみた。
黒羽「笑うと、年相応で可愛いって意味だ」
めいこは恥ずかしそうに下を向いた。
他の同級生は自分より子供みたいに見えるのに、ずっと大人のこの人からしてみれば、私だって立派な子供なのだ。
走ってからしばらくすると、タイヤがジャリジャリと音を立てて止まった。
黒羽「着いたぞー」
澄んだ風が通り抜けるここは、近所の浜辺らしい。
まだ海開きをしていないようで、人はほとんど居ない。
こんなところでお昼?
疑問に思いながら後ろを着いていくと、左に小さな海の家が立っていた。
黒羽が「おーっす!」と手を上げると、中にいた誰かがこちらにかけてくる。
黒羽「この子、お昼まだだってーから...」
そう言いかけた黒羽を通り過ぎ、野球少年のように短い髪のその人は、めいこの目の前で止まった。
「初めまして葵 剣太郎(あおい けんたろう)って言います!」
めいこ「ど、ども」
押しの強さにめいこはたじたじだ。
葵「ぜひ数年立ったらお付き合いしましょう!」
めいこ「へ」
黒羽「こらこら俺の大事なお客様を口説くな」
さっきも似たようなやり取りがあったような!
葵「ラーメンでいいですか?というかまだラーメンしかないんですけど」