第21章 【パラレル】豹のお兄さん(黒羽)
2人の返答は待たず、ハニカミ笑いをしながら、葵は海の家へ戻って行った。
黒羽「出来るまで少し歩こうぜ。痛いのは大丈夫か?」
めいこ「痛いですけど、気が紛れるかも」
黒羽「そっか、あんま無理すんなよ」
めいこ「はい」
めいこはスニーカーのまま、海でいくらか湿っているところを歩く。
黒羽は脱いだ靴を肩に担ぐと、もう少し海沿いを歩いていた。
下を向きながら、何かを探しているようだ。
遠くの遠くには、大きな船が見えた。
黒羽「おっ!」
嬉々とした声を出し、何かを拾った。
その近くにあったものも、拾っている。
何かな、アサリでも見つけたのかな。
めいこはというと、砂浜をグルグルと小さく歩いて、足跡で円を描いた。
今度は内側に、両方半円を描く。
実に子供っぽいことしてしまったが楽しい。
黒羽「なんだ?テニスボール?」
めいこ「よ、よく分かりましたねこんなんで!」
黒羽「もしかしてよ、テニスやってんのか?」
めいこ「いやいやいや!前マネージャーやってたってだけ...です」
めいこは慌てて否定した後に、余計なこと喋ってしまったなと思った。
けれど黒羽は、めいこの頭をポンポンと優しく触っただけだ。
黒羽「ん、手ぇ出してみ」
そう言われて素直に左手を出すと、先程拾っていたであろうものが掌に落ちてきた。
黒羽「やるよ」
めいこ「わぁ...!」
それは海に洗われ、すっかり丸くなったエメラルドグリーンやブラウン、コバルトブルーのガラス、薄い桜色をした小さな貝殻が何枚も。
少し濡れているところは、太陽に当たると煌めいた。
黒羽「それな、桜貝ってんだ」
宝石の様なそれらをじっくり見ていると、遠くで「ラーメンできましたよー!」という声がする。
黒羽「おー!今行く」
めいこ「あのっ!運転手さん」
黒羽「バネさんでいーって」
めいこ「え、あ、ば、バネさん、ありがとうございます」
ペコリとお辞儀すると、少しはにかんだ黒羽にワシャワシャと頭を撫でられた。
言葉はなくても、心の緊張がフッと解けたような気がする。
新しい場所でだって、きっと上手くやっていけるよね。
帰ったら、壊れないように丈夫な箱にコットンをしいて入れよう。