第21章 【パラレル】豹のお兄さん(黒羽)
めいこは走りだしたタクシーに軽く会釈して、薄茶色いレンガの壁に蔦が絡みついた、小さな整形外科の建物へ入っていった。
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天根「うーん、骨折したの写ってないね」
レントゲン写真の後ろから光を当てて読影する機器、シャウカステンに今撮ったものを挟みながら、天根は顎に手をあてた。
肩くらいまである赤茶のくせっ毛を、後ろでざっくりまとめていて、その横顔は普通の日本人よりも堀が深いことが分かる。
ダビデって、もしかしてダビデ像みたいって意味なのかな。
めいこ「...」
視線を下に向ければ、先程より紫色に腫れている、自分の手首にゾッとする。
天根「もしかしたら、写らないくらい細い骨が折れてるのかも」
めいこ「うひぃ」
天根「これは見つけるのに骨が折れるね、プッ」
めいこ「?!?!」
何かよくわかんないこと言ってる!
天根は看護師に指示を出し、骨折した人と同じように頑丈なギブスを着けてくれた。
天根「極力、動かさないように」
めいこ「はい」
湿布と予備の包帯を出してもらったが、肩から布で吊り上げられている自分の腕は、やけに派手で大袈裟にみえた。
さっきタクシー代高かったし、帰りはのんびり歩いて帰っちゃおっかな。
そう考えながら身支度をしていると、「ドモー」という明るい声がドアの方からしてきた。
中に入ってきたのは、さっきのタクシー運転手。
「あ、黒羽さん、どうもー。待ってくださいね、今お呼びしますからー」
受付の看護師さんはニコニコとしながら、後ろの部屋に入っていった。
しばらくして出てきたのは、白衣の前を開けた天根。
天根「どったの、バネさん」
黒羽「よー!健太郎からの差し入れ。お前今から休憩だろ?」
ビニール袋に入った物を差し出すと、中身を見た天根は顔を輝かせる。
天根「イチゴパフェ!!」
黒羽「そう、アイツ今知り合いの海の家手伝ってんだってさ。冷蔵庫入れて後で食えよ」
天根「良いチゴトしてパーフェクト、プッ」
黒羽「ダビデ..」
めいこは帰るタイミングを見失って、ポカンと2人のやり取りを見ていた。
視線に気がついた黒羽は、こちらに顔を向ける。
黒羽「お、和栗さん。よかった、まだ居た。送るぜ」
めいこ「へっ?」
天根「え、なに、彼女?」