第17章 恐怖か恋のドキドキか(忍足/跡部)
忍足「めいこ..」
今度は忍足独特の低音ボイスを、背後から耳元に囁かれるという攻撃を食らい、違う目眩がした。
忍足「コッチ向き?」
めいこ「や、やだ」
この近距離で振り向けば、うっかりの事故チューになりかねない。
ドキドキくらくらするのは、こういうの馴れてないだけだもん!
忍足「強情やなぁ」
忍足のフッと笑った息が耳にかかり、さらにドギマギする。
めいこ「だって!こう!本を代わりに後から取ってもらうのにちょっと憧れてただけですもん!」
忍足「あぁ、なんや。そら悪かったなぁ」
笑いを含んだ声で、顔の横から手が退けられた。
めいこはホッと胸を撫で下ろす。
忍足「今、和栗が持ってる本の1巻目、確かこないなシーンあったはずやから、てっきりチューして欲しいんか?と思うたわ」
めいこ「チュー?!」
事故以前にするつもりだったのか?!
忍足「それにさっきは、親戚に小さい子がおるから、その癖でつい持ち上げてしもた」
めいこ「同じ扱い!」
忍足「堪忍堪忍。せやけど、和栗でもそういう乙女心あるんやな、かわええやん」
めいこ「なんですと失礼な!」
かわいいという言葉は彼女に届かなかったらしい。
愛おしげに、忍足はめいこの頭を優しくなでた。
めいこ「ぐぐぐ..」
めいこは歯を食いしばって押し黙る。
忍足「へぇ、ホンマや。跡部の言うた通り、頭撫でると大人しゅうなるな」
めいこ「ぐーっ!」
めいこは異議申し立てとばかりに、頭上の忍足に向かって威嚇した猿のような顔で叫んだ。
忍足「なにこの生き物、めっちゃおもろい」
その時、横の方から「ゴホンッ!」という咳払いが聞こえた。
脚立に登ったおじさんだ。
めいこは引きつった愛想笑いとともに、そそくさとその場を後にした。
めいこ「っていうか、別行動にした意味ありませんでしたね」
忍足「せやなぁ、まさか和栗もこの小説読んでるとは思わんかったで」
めいこ「それはあたしもですよ。忍足先輩が純愛もの読むとか意外ですもん」
本を会計に出しながら、めいこは後ろの忍足と話す。
忍足「俺こう見えてもロマンチストやで」
めいこ「えー」