第14章 気分転換しましょう(跡部/不二)
斜め右前に座る忍足を除いて。
忍足「はぁ」
後方の人達に映画浪漫を次々に先越され、自分のくじ運の悪さに小さくため息をついた。
しかしめいこが赤くなったのもつかの間で、おどろおどろしいタイトルとともに、本編が始まりだした。
先程借りた越前の帽子を握りしめ、めいこは恐怖に備える。
もうさっきのドキドキなのか恐怖のドキドキなのかもはや分からなくなっていた。
めいこは帽子を胸元に抱えつつ、さっそく両手で顔を覆っていた。
指の間からチラッとみてはいるが、怖くなりだしたら指を揃えて完全シャットアウトするつもりであった。
不二「和栗さん、怖いなら手を繋いであげるよ」
その様子をみた不二は、心配して小声で話しかけてくる。
ちょうど主人公が映った画面はゆらゆらと揺れ、観る側を不安にさせるような感じであった。
めいこは恥も外聞もなく何度も強く頷き、迷わず不二の右手を掴んだ。
『キャーーッ!』
めいこ「ふうっっ!」
めいこは飛び出す映像を越前帽子でガードしつつ、ビクつきながら不二の手をぎゅうっと握る。
『うわーっ!ぎゃー!』
めいこ「んひゃっ!」
パニック映像を前に、もう片方の手で跡部の肩あたりの布を摘んだ。
『ぐっ...ぐえぇええ』
めいこ「うーっうぅ〜っ」
グロシーンになりそうな場面では、とうとう跡部の肩後ろに頭を完全に隠し、何とかやり過ごしていた。
と思ったら、突然恋人達のラブシーン。
濃いなっ!これR15指定じゃないはずだよね?!これが世に言うエログロですか?!
恥ずかしさにいたたまれなくなっためいこは、チラッと跡部をみる。
特に変わった表情はみられず、頬杖をついた横顔は映像の明かりにチカチカと照らされていた。
視線を感じてこちらをみた跡部と目が合う。
慌てて前に向き直ると、爆音とともに狂気じみた映像が3Dで飛び出した。
越前帽子ガードは間に合わず、めいこは1cmほど上に跳ねた。
そしてこちらは驚きすぎて声も出ないというのに、隣の跡部はというと丸めた肩が震えており、どう見ても笑いを噛み殺している。
対照的に、不二はめいこの頭を優しく撫でてくれたのだった。
桃城「いやー!怖かったけど面白かったっすねぇ!」