第9章 肉を切らせて骨を断つ
わたしは笑って首輪からリードを外す。
「あ……!」
縋るように見上げるサヘルくん。
わたしはにこっと笑んだ。
「このまま一人でお散歩してみましょっか」
「えっ」
サヘルくんが固まる。
わたしは廊下を指さした。
「四つん這いのまんま、廊下一周してください」
「あ、あッ……」
「できますか?」
サヘルくんの目は虚ろに揺れる。
大きな瞳にわたしを映し込み、首を縦に揺らした。
ぺたぺたと手を付き、廊下を這う。
四つん這いで歩いていく姿は不安と興奮が滲んでいる。
ひたひたと音を立てないように。
そろりそろりと歩く。
突き当たりにたどり着きぐるりと方向転換した瞬間、
「忘れ物したー!」
今まさにサヘルくんが歩んでいた道を、男子生徒が走ってきた。
「ッ……!」
サヘルくんは一瞬立ち上がろうとしたものの、躊躇った。
四つん這いのまま、必死に歩みを速める。
「ふ、う……っ……ぅ」
サヘルくんを見つけることなく、忘れ物を取りに来た男子生徒は自分の教室に入っていった。
サヘルくんは気が付かずに鼓動を早くしていたようだ。
その光景を見守っていたわたしは安堵に胸を撫で下ろした。