第38章 女王は君臨すれども統治せず
そう言いながらも二人はその場に立ちすくんだまま話し始める。
「そう言えば冴舞の噂知ってる?」
「噂?」
「冴舞ってさあ女王様がいるらしいよ。噂だとすげえ事してくれるって」
友達からボソボソと話される内容に少年は一気に表情を明るくし目を輝かせる。
「えっ!マジ!?じゃあオレ冴舞受験しよっかなあ〜!オレもいじめられて〜!」
鼻息荒く声を大きくする少年に友達は顔を顰める。
「落ち着けって」
「ん……待って……冴舞って男子校じゃん!」
「……それなんだよねえ」
少年は一気に落胆した顔になり、隣の友達を小突く。
「ふざけんなよ、じゃあ女王様とかいる訳ねえじゃん」
「いやいやドSな女教師がさぁ……」
「お前AVの見すぎだって」
「お前に言われたくねーし」
その後も校門の前でぎゃーぎゃーと元気よく言い争う。
楽しそうにじゃれあう姿に思わず笑いを零すと、二人はわたしを勢いよく振り返る。
道を開くようにぱっと左右に離れ、頭を下げた。
「すっ、すみません!」
わたしはにこっと会釈して
「大丈夫ですよ」
冴舞学園の校門をくぐる。
「冴舞に入ってった……」
「え、えっ……マジなのかな、あの人が女王様、とか」
「普通に考えて違うだろ〜……」
「…………」
「やばっ、もう遅刻する!」
「うわっ!ほんとじゃん、走ろうぜ!」
✱
今日も保健室に入り、白衣に袖を通す。
「……こんにちは、今日はどうしたんですか?」
にこ、と笑みを浮かべて、彼を嗜虐的に見つめた。