第9章 肉を切らせて骨を断つ
手を動かし、
「ちゃんと出来たらいっぱい撫でてあげますからね」
リードをくいっと引っ張る。
「きゃ、んっ!」
喉元の革が前に進み、サヘルくんは高い声をあげた。
「あん!うっ、紗都先せっ……」
「何やってるんですか?犬なら犬らしく、四つん這いで歩いてください」
力を緩めてあげると、
「あ、あ!は、はいっ!」
サヘルくんはすぐに床に両手を置き、両膝を付く。
床の冷たい温度が伝わったのか、背筋がびくんと跳ねた。
「先生っ……」
サヘルくんが不安そうにわたしを見上げる。
「行きますよ」
保健室のドアを開ける。
一歩進むと、サヘルくんもぺたぺたと歩く。
廊下に出ると、だべっている生徒達の笑い声、部活動生達の残した制汗剤の匂い。
遠くから聞こえる全てのものが不安を煽り、興奮させる材料になる。
わたしも生唾を飲んだ。
手のひらが汗ばむ。
見えない人影に怯え、高まる。
わたしは口角をあげた。
身体の中が熱く、吐き出した息も熱い。