第9章 肉を切らせて骨を断つ
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仕事を終え、保健室を出る。
校門に人影が見えて驚いた。
サヘルくんが嬉しそうにこちらに手を振る。
わたしは驚き顔でサヘルくんの元に走る。
「ま、待ってたんですか?」
「紗都先生にお礼が言いたくて」
サヘルくんは弾けるような笑顔を見せる。
「ぼく、紗都先生に会ってから学校楽しいんです!優しいし、ぼくの話も聞いてくれるし、ぼくを心配してくれる」
目を輝かせるサヘルくん。
わたしはあまりの盲信っぷりにふうっとため息をついた。
眉間にぐっと皺が寄る。
「……わたし、そんなデキた先生じゃないですよ」
心の奥の本音を吐露する。
ちくりと込めた嫌味にも気が付かないのか、サヘルくんはわたしの言葉を否定する。
「そんなことありませんっ!紗都先生はすごく優しくて」
わたしは必死に訴えかけるサヘルくんの、
「もう忘れたんですか?」
片手を強く掴んだ。
サヘルくんは瞬発的にぎゅっと目を閉じた。
その顔を引き寄せ、笑う。
「また、あんなことされちゃいますよ」
「あ……」
「……いい先生いい先生、って言うのやめてください」
わたしの心に付き纏う影。
お人好しな保健室の先生、サディスティックな性癖の自分。
わたしは小さな声で、囁くように言った。
「イライラするんです」
吐き捨てて、帰ろうとした時。
サヘルくんの顔が目に止まった。
両目にじわあっと涙を浮かばせている。
わたしは立ち止まり、頭を掻いた。
そんなにわたしが理想の先生なんだろうか。
「納得、できませんか?」
サヘルくんは涙ながらにこくんと頷く。
「わたしのこと教えて欲しいなら、少し遊んであげましょうか」
「え……」