第8章 待てば海路の日和あり
「頭い、て……ッ……!?」
わたしを見るなり、時雨先生が飛び起きた。
驚いた顔の時雨先生に微笑む。
「あ、起きました?」
「わ……悪ぃ」
時雨先生は気まずそうに呟き、周囲を見回す。
「ここ、どこだ……?」
「わたしの部屋です」
伝えると、ぶっと噴き出した。
わたしはちらりと目線をやる。
キッパリと言い切った。
「時雨先生が路上に潰れてたんです、連れてくるの大変だったんですよ?」
「……そっか、悪ぃ……」
時雨先生は壁際に目をやり、表情を曇らせた。
わたしは軽く受け流し、隣に立つ。
時雨先生はわたしの方を見て、静かにわたしを受け入れた。
腰を下ろす。
「いーえ。でもどうしたんですか、あんな所で」
時雨先生は思い出すように、言葉を短く切りながら。
ゆっくりと話し始めた。
「今日の出張で呑みに誘われて、押し切られて……俺、下戸だから」
わたしはふーん、と頷き横を向いた。
時雨先生は居心地悪そうに俯いている。
わたしは手を伸ばし、時雨先生の背中に腕を回した。
「……んだよ」
両腕でぎゅっと抱きしめる。
「よく頑張りました」
時雨先生が猫背を更に丸める。
わたしの胸に埋めるように顔を隠した。
擽ったくて、可愛らしくて、微笑ましい。
「いい子いい子」
優しく頭を撫でる。
時雨先生はわたしの胸元に顔を押し付け、しばらくそのままでいた。
時雨先生が視線をわたしに合わせる。
酔いが残っているのかほんのり頬は赤いが、真剣な眼差しをしている。
「なあ、丸木戸……俺……」
わたしはそのギャップにくすくすと笑った。
「それにしても、時雨先生って酔っ払ってたら随分と可愛らしいんですね」
「……へ」