第7章 両手に花
「気持ちよかったみたいですね」
わたしは優しく笑い、手袋を外した。
聖くんのお腹に付着した精液をティッシュで拭う。
「ぅ……ご、ごめん、いい、自分で……」
「大丈夫ですよ」
聖くんは足を下げ、横向きに椅子に座る。
制服を正し、長いため息をついた。
苦笑した。
「……先生はとんでもない女性ですね」
「……へ」
聖くんは学生鞄を手に取る。
「帰るよ」
「あ、オレも帰るー」
永夢くんがわたしに手を振る。
「じゃあね、せんせー」
「……じゃあ」
聖くんは軽く頭を下げ、二人並んで外へ出ていった。
✱
その日の帰り道。
わたしは、道路にぶっ倒れている人を見つけてしまった。
仕事からの帰り道、夜の路上に寝そべっている……おそらく生きている人間。
わたしはちょこちょこと側まで歩み寄り、
「だ……大丈夫、ですか」
小声で安否確認した。
「ぅ……」
倒れた彼がモゾモゾと動く。
小さくうめき声をあげる。
どうやら男の人らしい。
というか……
「時雨、先生……?」
わたしは声を漏らした。
しゃがみ込むと、整った顔が真っ赤になっているのが分かる。
「わっ」
時雨先生が薄目を開けた。
普段の不機嫌そうな表情は弛緩し、微睡んだ目付きがわたしを見る。
「んぅ……丸木戸……?」
「そ、そうですけど」
「丸木戸……ねえ、俺、きょおいいたいことあっれ……あいらぃなぁっ、てぇ……俺すごぃふぁんれ……」
「んなに言ってんだかさっぱり分かりませんよ!どっ、どうしたんですか酔ってるんですか!?」
「…………」
「寝ないで下さいよ!」
✱