第6章 魚心あれば水心
「待って、サヘルくん!違うの!」
サヘルくんは一切振り返らずに無我夢中で走る。
わたしも追いすがるものの、あっという間に距離が離れていく。
懸命に追いかける。
「何が違うって言うんですかッ……」
「忘れ物!わたしっ、忘れ物を届けに来ただけなの!」
サヘルくんが足を止めた。
わたしはゆっくりと歩み寄る。
こわごわとペンケースを差し出した。
「ペン、ケース……」
サヘルくんは震える手で受け取る。
「あ、ありがッ」
お礼の途中で言葉に詰まり、
「うぅ〜ッ……」
そのままボロボロと涙を流し始めた。
わたしは飛び上がった。
「え、ええっ!どどッどうしたのっ?大丈夫、大丈夫だよ!」
「ご、ごめんなさいぃ〜……ッ、ぅ、ひっ、う!」
「泣かないで〜っ!」
訳が分からないままサヘルくんの背中を撫で、慰める。
サヘルくんはぐすぐすと泣きじゃくっている。
わたしは慌てふためくしかない。
どうしよう、と目を泳がせると生徒指導室が目に入った。
「そうだ!ここ入ろっか、ちょっと休もっ」
半ば強引にサヘルくんと部屋に入った。