第6章 魚心あれば水心
授業終了のチャイムが鳴った。
サヘルくんが立ち上がる。
「それじゃあ失礼しますね」
わたしは微笑む。
「またね、サヘルくん」
「は、はい」
「そんじゃーな……」
サヘルくんはぺこりと頭を下げ、保健室を出ていく。
礼儀正しいいい子だなあ。
いい気持ちで仕事を再開しようとした時、机の上に置かれたペンケースに気がついた。
「あ、これサヘルくんのかな」
ペンケースを掴み、椅子から腰を上げた。
今出ていったばかりだから間に合うかな。
「わたし届けてきます」
時雨先生は黙って頷く。
わたしは早足に保健室を出た。
ペンケースを持ち、足早に探す。
学園内をほとんど走り抜けていると、サヘルくんを見つけた。
わたしは自分の目を疑う。
「サヘル、くん……?」
ボソッと名前を呼ぶと、
「え」
サヘルくんは振り向いた。
わたしに気づくと、みるみるうちに青ざめていく。
「ッ……!」
脱兎のごとく駆け出した。
「ま、待って!」
わたしも慌てて走り出す。