第6章 魚心あれば水心
荷物を手渡すと、後ろにいた時雨先生がわたしを手招きした。
わたしは頷いてその指示に従う。
「じゃあ、サヘルはゆっくりしといて……」
「はい」
時雨先生に連れ立って廊下に出た。
「どうしたんですか?」
時雨先生は保健室をチラリと見、わたしの問に静かに答えた。
「あいつ、一ノ瀬サヘルな……あいつ、不登校気味で」
「そうなんですか……」
「それで今保健室に来てるのも、怪我とか病気っていうか、まああいつの打開策なんだろうな」
わたしは真剣な面持ちで耳を傾ける。
「でも、まあ……お前は分かってるだろうけど、それを頭に入れた上で接しろよ、って話」
わたしは大きく首を縦に振る。
「わかりました」
「ん」
時雨先生は踵を返し、気だるげに保健室に入っていく。
わたしも後に続いた。
サヘルくんは黙々と学習に取り組んでいる。
何となく自分も姿勢が伸びる。
頑張るぞ、と意気込んだ瞬間。
ストッキングが伝染していることに気がついた。
足先から伸びる線。
すっくと立ち上がった。
「ちょ、ちょっとすみません」
足元を意識しながら席を外す。
わたしが学園内唯一の使用者である女子トイレに向かった。
「あ〜……」
トイレの個室内でがっくりと肩を落とした。
明らかに目立つ直線。
スカートの下に手を入れ、ストッキングを掴む。
まだ温もりの残るストッキングを脱ぎ捨て、ゴミ箱に入れた。
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